ep.3 同居の息子を素行調査、の理由

■ご依頼者:Iさんご夫婦(50歳代)

 その日、約束の時間に当社の相談室を訪れたのは、1組のご夫婦でした。お互いをいたわりように形を寄せ合いながら、静かにドアを開いてやってきました。お二人とも表情に精彩がなく疲れきっていて、長年の苦労が偲ばれました。そして私は「あー、お子さんのことでずいぶん苦労をされているのだな」とピンときました。

 

 ご依頼の趣旨は、同居されている息子さんの素行調査をしてほしい、ということでした。なぜ一緒に暮らしているのに、息子の行動がわからないのか。普通の家庭であれば、そんな事はあまりないお話です。

 

 私どもの会社でも、お子さんの素行調査の依頼をたまに受けることがありますが、遠方で一人暮らしをしていて心配、どんな様子で暮らしているかを知りたい、と言うものがほとんどです。

 

 同じ屋根の下で暮らしている息子の動向を、お金を払ってまで知りたいと思われる、その事情をしっかりと把握したいと思い、私はIさんご夫婦にじっくりとお話を伺うことにしました。

 

「なぜ、息子さんの身辺調査が必要なのですか」

 

「息子は今、働きもせずに自宅にいるのですが、お昼ごろふいっと出て行ってなかなか帰って来なかったり、夜遅くに出かけたりします。何をしているかわからなくて、とても心配なんです」

 

「どこへ行くか、おたずねしたりはしないんですか」

 

「私と母の言うことなんか、聞きもしません。怒鳴られるだけです。実は……気に入らないことがあると、手を上げることもあるので、私たち、何もできないんです」

 

 ご夫婦は力なくそうおっしゃいます。

 

「素行調査と言うのは、息子さんになにか気にかかることがあったのでしょうか」

 

 私が尋ねると、Iさんご夫婦はいくつかの不安をおっしゃいました。息子さんは以前から自宅のお金を持つ出すことがしばしばあり、外にサラ金からの借金があることが判明したこと。数ヶ月前に短期間、ホストクラブで働いていたことがあり、その時に背中に刺青を入れていたこと。夜遅くに外出するが、30分程度で戻ってくることが多いこと。それらのことから考えて、何か悪い人たちとのつながりがあり、薬物に手を出しているのではないかというのがお二人の考えでした。

 

「こうした世界に足を踏み入れているとしたら、私たちにはとても手に負えません。どうぞその実態だけでも、掴んでいただきたいのです」

 

 確かに薬物となれば、もしかしてやくざとの関わりがある問題かもしれません。私たちは、基本的にそうした裏社会の調査はお断りしていますが、切羽詰まったお二人を前にして、「それは危険ですので、お断りします」とは言いません。とにかく、息子さんの行動を調査する、ということでお引き受けすることにしました。

 

 数日間、外出する息子さんを尾行して、調査を行ったところ、Iさんご夫婦の心配は杞憂であることがわかりました。息子さんは外出すると、パチンコ屋さんに直行。夜遅くに家から出て行くのも、翌日のパチンコ台を選ぶためのチェックに出かけているだけでした。借金も、パチンコでの浪費によるもの。調査中、友人等の人との接点は全くありませんでした。

 

 刺青に関しても、ホストクラブで働いている時、泥酔させられて、意識がないままにイタズラで入れられてしまったことが判明しました。

 

 Iさんご夫婦に、息子さんの行動記録をまとめた報告書を手渡し、ご心配されていたような事はなかったと答えしました。お二人は、一瞬、ほっとしたような表情浮かべられました。でも奥様の方が、ポツンと言葉を漏らされたのです。

 

「でも、これで何かが変わるわけではありませんよね」

 

 確かに、奥様の言う通りです。息子さんが薬物に手を染めたり、悪い仲間と付き合っている、という疑いが晴れました。けれどお二人にとって、息子さんとの問題が、解決したわけではありません。身辺調査の報告が完了すれば、探偵業者としての役割は十分に果たしたといえます。しかしそれでは問題解決には全くなっていないという事実がここにぽっかりと残っているのです。

 

 これまでの息子のふしだらな行動や、ご夫婦の苦しみを全て吐き出した、その親密感からでしょうか。Iさんご夫婦はすがるような目で見つめます。私に何か言って欲しい。これからどうしたら良いか、ヒントにでもなる言葉を求めてくる、そのように感じました。

 

 私は自分の気持ちを正すように、ぐっと胸を張り、そして言いました。

 

「私でよければ、息子さんにIさん達の思いをお話しします」

 

 すると2人の顔がパッと明るくなるのがわかりました。どうしようもない閉塞感の中で、助け舟を出した私に、もう藁にもすがるような思いだったのでしょう。

 

 今すぐにでも、と言われるIさんご夫婦にせっつかれるように、私は1時間後には、Iさんのご自宅のリビングのソファーに座っていました。午後2時を過ぎたころでしたが、今目が覚めたばかりと言う風体で息子さんが部屋のドアを開けました。
見たこともない女性が1人、座っていることに驚いている様子だったので、私はすぐに自己紹介をしました。もちろん探偵などとは申しませんが…。

 

「お母様のお友達の紹介で来ました高田です。少しあなたとお話がしたくてきたんですが、いいですか」

 

 少し抵抗するかと思いきや、私の目の前のソファーに座り、すんなりと会話にのってきました。私は仕事柄、これまで年齢も、職業も、生い立ちもさまざまな人たちと出会い、お話をさせていただきました。相手の本音を引き出すは話術には、それなりの自信もあります。

 

 彼は生意気な口調であれこれと、自分の人生を振り返りながら、あの先生が気に入らなかったから学校辞めた、就職するのがかったるい、あいつのあそこが気に入らないなどと、現在に至るまでにあった不満を私にぶつけます。私もなるべく息子さんと同じ目線で、いやそれよりもさらに低い目線を心がけ、「なるほどねー」「わかるよね」「そうなんだー」などと相槌を打ちながら、話を聞いていました。

 

 そうしながらふと、相手の手元に目をやると、体は大きいのに細くて綺麗な手をしていることに気づきました。指先の爪がガチガチにかけています。多分爪を噛む癖が抜け切れないのでしょうか。その指先を見つめながら話を聞いているとさらに調子づいたのか今度は両親を馬鹿にするようなセリフが口から出始めました。

 

 ここで私の心の中で、プツンと糸が切れてしまいました。

 

 探偵事務所に何度も足を運び、自分の息子が情けないと言いつつ、それでも心配を重ね、涙しながら私に救いを求めたご両親。私の下に来るまでにも、きっとたくさんの悩みと闘いながら、辛い思いをしていたのでしょう。そう考えると、この甘ったれた若造の頬をバシッと叩いてやりたいほどの怒りがふつふつと湧いてきたのです。

 

 私はすーっとソファーから立ち、キッと息子をにらんで言い放ちました。
「実は、私は探偵です。ご両親があなたのことを心配して、私に調査を依頼しました。それだけあなたのことを心配しているご両親を、あなたはどうしてそんな風に言えるのでしょう。今ある自分が恥ずかしくないのですか!ご両親に謝りなさい!」

 

 すると息子さんはピタリと口を閉じました。

 

 私は再び口を開き、彼を叱りつけるのではなく、愛情を込めて、私も、そしてご両親も、あなたの未来を心配して、あなたのために言っているのだと言うことを渾身の力を込めて話しました。

 

 すると息子さんは突然ボロボロと涙を流し始めました。

 

「自分だって、なりたくてこうなったのではないんだ。このままではいけないこともわかっている。でもどうしたらいいかわからない」

 

 そう訴え始めました。そして最後に一言。

 

「俺は、本当は変わりたいんだ」

 

それを聞いて、そばにいたご両親も泣き出しました。親子3人、声をあげて泣く姿を見ながら、私の頬にも涙で濡れていました。

 

「変わりたいと思うなら、変われるよ。変わってごらん」

 

 その言葉を残して、私はIさんの家を後にしました。

 

 私は数日間、彼が心を改めて、心機一転、頑張れるような仕事場はないか、できれば親元を離れ、再出発できるような仕事を、知人などを通して探しておりました。そこにタイミングよくIさんから電話が入りました。

 

「息子が高田さんにご挨拶したいと言うのですが、伺ってよろしいでしょうか」

 

「はい、もちろんです。お待ちしています」

 

 その日の午後、Iさんご夫婦が息子さんを連れてやってきました。息子さんの姿を見てびっくり。ぼさぼさに伸びていた髪をスッキリと切って、坊主頭になっており、その覚悟の程がわかりました。さらに驚いたことがありました。

 

「私の知人が寺の住職をしていまして、そこに修行に出すことにしました。坊主になろうと言うのではありません。ただそうした厳しい環境の中で、もう一度自分を見つめ直すのも良い機会かと。本人も行くと言っていますので」

 

 そうお父様がおっしゃいます。息子さんも坊主頭を撫でながら恥ずかしそうにうなづきました。予想外の展開に、さすがの私も驚きましたが、もちろん本人が決めたこと。私は息子さんの手を握り、頑張ってと送り出しました。

 

 1ヶ月ほど経って、お母様からわざわざお電話をいただきました。

 

「朝が早くて辛い、辛いとは言っていますが、元気でやっているようです。高田さんと会わなければ、息子の今はありませんでした。本当にありがとうございました」

 

その言葉をいただき、私自身も胸が熱くなる思いでした。

ep.1 小さな依頼者からの贈り物

ep.2 家出から20年後の家族との再会

ep.4 娘の愛した男の正体

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同居の息子を素行調査、の理由

ご依頼者:Iさんご夫婦(50歳代)

 

 その日、約束の時間に当社の相談室を訪れたのは、1組のご夫婦でした。お互いをいたわりように形を寄せ合いながら、静かにドアを開いてやってきました。お二人とも表情に精彩がなく疲れきっていて、長年の苦労が偲ばれました。そして私は「あー、お子さんのことでずいぶん苦労をされているのだな」とピンときました。

 

 ご依頼の趣旨は、同居されている息子さんの素行調査をしてほしい、ということでした。なぜ一緒に暮らしているのに、息子の行動がわからないのか。普通の家庭であれば、そんな事はあまりないお話です。

 

 私どもの会社でも、お子さんの素行調査の依頼をたまに受けることがありますが、遠方で一人暮らしをしていて心配、どんな様子で暮らしているかを知りたい、と言うものがほとんどです。

 

 同じ屋根の下で暮らしている息子の動向を、お金を払ってまで知りたいと思われる、その事情をしっかりと把握したいと思い、私はIさんご夫婦にじっくりとお話を伺うことにしました。

 

「なぜ、息子さんの身辺調査が必要なのですか」

 

「息子は今、働きもせずに自宅にいるのですが、お昼ごろふいっと出て行ってなかなか帰って来なかったり、夜遅くに出かけたりします。何をしているかわからなくて、とても心配なんです」

 

「どこへ行くか、おたずねしたりはしないんですか」

 

「私と母の言うことなんか、聞きもしません。怒鳴られるだけです。実は……気に入らないことがあると、手を上げることもあるので、私たち、何もできないんです」

 

 ご夫婦は力なくそうおっしゃいます。

 

「素行調査と言うのは、息子さんになにか気にかかることがあったのでしょうか」

 

 私が尋ねると、Iさんご夫婦はいくつかの不安をおっしゃいました。息子さんは以前から自宅のお金を持つ出すことがしばしばあり、外にサラ金からの借金があることが判明したこと。数ヶ月前に短期間、ホストクラブで働いていたことがあり、その時に背中に刺青を入れていたこと。夜遅くに外出するが、30分程度で戻ってくることが多いこと。それらのことから考えて、何か悪い人たちとのつながりがあり、薬物に手を出しているのではないかというのがお二人の考えでした。

 

「こうした世界に足を踏み入れているとしたら、私たちにはとても手に負えません。どうぞその実態だけでも、掴んでいただきたいのです」

 

 確かに薬物となれば、もしかしてやくざとの関わりがある問題かもしれません。私たちは、基本的にそうした裏社会の調査はお断りしていますが、切羽詰まったお二人を前にして、「それは危険ですので、お断りします」とは言いません。とにかく、息子さんの行動を調査する、ということでお引き受けすることにしました。

 

 数日間、外出する息子さんを尾行して、調査を行ったところ、Iさんご夫婦の心配は杞憂であることがわかりました。息子さんは外出すると、パチンコ屋さんに直行。夜遅くに家から出て行くのも、翌日のパチンコ台を選ぶためのチェックに出かけているだけでした。借金も、パチンコでの浪費によるもの。調査中、友人等の人との接点は全くありませんでした。

 

 刺青に関しても、ホストクラブで働いている時、泥酔させられて、意識がないままにイタズラで入れられてしまったことが判明しました。

 

 Iさんご夫婦に、息子さんの行動記録をまとめた報告書を手渡し、ご心配されていたような事はなかったと答えしました。お二人は、一瞬、ほっとしたような表情浮かべられました。でも奥様の方が、ポツンと言葉を漏らされたのです。

 

「でも、これで何かが変わるわけではありませんよね」

 

 確かに、奥様の言う通りです。息子さんが薬物に手を染めたり、悪い仲間と付き合っている、という疑いが晴れました。けれどお二人にとって、息子さんとの問題が、解決したわけではありません。身辺調査の報告が完了すれば、探偵業者としての役割は十分に果たしたといえます。しかしそれでは問題解決には全くなっていないという事実がここにぽっかりと残っているのです。

 

 これまでの息子のふしだらな行動や、ご夫婦の苦しみを全て吐き出した、その親密感からでしょうか。Iさんご夫婦はすがるような目で見つめます。私に何か言って欲しい。これからどうしたら良いか、ヒントにでもなる言葉を求めてくる、そのように感じました。

 

 私は自分の気持ちを正すように、ぐっと胸を張り、そして言いました。

 

「私でよければ、息子さんにIさん達の思いをお話しします」

 

 すると2人の顔がパッと明るくなるのがわかりました。どうしようもない閉塞感の中で、助け舟を出した私に、もう藁にもすがるような思いだったのでしょう。

 

 今すぐにでも、と言われるIさんご夫婦にせっつかれるように、私は1時間後には、Iさんのご自宅のリビングのソファーに座っていました。午後2時を過ぎたころでしたが、今目が覚めたばかりと言う風体で息子さんが部屋のドアを開けました。
見たこともない女性が1人、座っていることに驚いている様子だったので、私はすぐに自己紹介をしました。もちろん探偵などとは申しませんが…。

 

「お母様のお友達の紹介で来ました高田です。少しあなたとお話がしたくてきたんですが、いいですか」

 

 少し抵抗するかと思いきや、私の目の前のソファーに座り、すんなりと会話にのってきました。私は仕事柄、これまで年齢も、職業も、生い立ちもさまざまな人たちと出会い、お話をさせていただきました。相手の本音を引き出すは話術には、それなりの自信もあります。

 

 彼は生意気な口調であれこれと、自分の人生を振り返りながら、あの先生が気に入らなかったから学校辞めた、就職するのがかったるい、あいつのあそこが気に入らないなどと、現在に至るまでにあった不満を私にぶつけます。私もなるべく息子さんと同じ目線で、いやそれよりもさらに低い目線を心がけ、「なるほどねー」「わかるよね」「そうなんだー」などと相槌を打ちながら、話を聞いていました。

 

 そうしながらふと、相手の手元に目をやると、体は大きいのに細くて綺麗な手をしていることに気づきました。指先の爪がガチガチにかけています。多分爪を噛む癖が抜け切れないのでしょうか。その指先を見つめながら話を聞いているとさらに調子づいたのか今度は両親を馬鹿にするようなセリフが口から出始めました。

 

 ここで私の心の中で、プツンと糸が切れてしまいました。

 

 探偵事務所に何度も足を運び、自分の息子が情けないと言いつつ、それでも心配を重ね、涙しながら私に救いを求めたご両親。私の下に来るまでにも、きっとたくさんの悩みと闘いながら、辛い思いをしていたのでしょう。そう考えると、この甘ったれた若造の頬をバシッと叩いてやりたいほどの怒りがふつふつと湧いてきたのです。

 

 私はすーっとソファーから立ち、キッと息子をにらんで言い放ちました。
「実は、私は探偵です。ご両親があなたのことを心配して、私に調査を依頼しました。それだけあなたのことを心配しているご両親を、あなたはどうしてそんな風に言えるのでしょう。今ある自分が恥ずかしくないのですか!ご両親に謝りなさい!」

 

 すると息子さんはピタリと口を閉じました。

 

 私は再び口を開き、彼を叱りつけるのではなく、愛情を込めて、私も、そしてご両親も、あなたの未来を心配して、あなたのために言っているのだと言うことを渾身の力を込めて話しました。

 

 すると息子さんは突然ボロボロと涙を流し始めました。

 

「自分だって、なりたくてこうなったのではないんだ。このままではいけないこともわかっている。でもどうしたらいいかわからない」

 

 そう訴え始めました。そして最後に一言。

 

「俺は、本当は変わりたいんだ」

 

それを聞いて、そばにいたご両親も泣き出しました。親子3人、声をあげて泣く姿を見ながら、私の頬にも涙で濡れていました。

 

「変わりたいと思うなら、変われるよ。変わってごらん」

 

 その言葉を残して、私はIさんの家を後にしました。

 

 私は数日間、彼が心を改めて、心機一転、頑張れるような仕事場はないか、できれば親元を離れ、再出発できるような仕事を、知人などを通して探しておりました。そこにタイミングよくIさんから電話が入りました。

 

「息子が高田さんにご挨拶したいと言うのですが、伺ってよろしいでしょうか」

 

「はい、もちろんです。お待ちしています」

 

 その日の午後、Iさんご夫婦が息子さんを連れてやってきました。息子さんの姿を見てびっくり。ぼさぼさに伸びていた髪をスッキリと切って、坊主頭になっており、その覚悟の程がわかりました。さらに驚いたことがありました。

 

「私の知人が寺の住職をしていまして、そこに修行に出すことにしました。坊主になろうと言うのではありません。ただそうした厳しい環境の中で、もう一度自分を見つめ直すのも良い機会かと。本人も行くと言っていますので」

 

 そうお父様がおっしゃいます。息子さんも坊主頭を撫でながら恥ずかしそうにうなづきました。予想外の展開に、さすがの私も驚きましたが、もちろん本人が決めたこと。私は息子さんの手を握り、頑張ってと送り出しました。

 

 1ヶ月ほど経って、お母様からわざわざお電話をいただきました。

 

「朝が早くて辛い、辛いとは言っていますが、元気でやっているようです。高田さんと会わなければ、息子の今はありませんでした。本当にありがとうございました」

 

その言葉をいただき、私自身も胸が熱くなる思いでした。